Book Select 本を選び、本に選ばれる

読んだ本にまつわる話を書き綴っていくことにしました。マンガが大半を占めていますが小説も好き。マンガはコミックで読む派。本は買って読む派なので常にお金と収納が足りません。例年1000冊以上コミック読んでます。ちなみに当ブログのアフィリエイト収入は良い時で月1000円くらいです(笑)収入はすべて本の購入に充てられます。

虚構の信ぴょう性を虚構が重ねていく緊張感のある物語。 奥泉光/虫樹音楽集

歴史を語ることの難しさとか、そもそもの歴史の虚構性みたいなものを
意識している作家だと知り、順番としてはおかしいのだけど『東京自叙伝』読んでから、
続けてこっちも読んだ。

あるジャズミュージシャンにまつわる思い出と、カフカの『変身』が絡まり合って
出来上がった作品集で、章ごとに語り口も異なる。

虫樹音楽集 (集英社文庫)

虫樹音楽集 (集英社文庫)

これもまたミュージシャンが実在したとするノンフィクションをベースにしたフリをしながら、
虚構の世界が広がっていく。
これも読めば読むほど、何を信じて良いのかわからなくなる。

渡辺柾一というミュージシャンが本当に実在したのかどうかを調べる術がないのだけど、
彼が実在していようと、実在していなかろうと、どっちでも良いっちゃどっちでもいい。

そんなミュージシャンは存在していない方がむしろ面白い。
史実っぽい体で語られる土台の部分が嘘で、しかもその嘘を
尤もらしくするために作られた数々の登場人物と、エピソードを補完するような各章たち。

でもそんなの普通の小説がみんなやってることだったりする。
登場人物があたかも存在するかのように描き、共感を誘うのだけれど、
小説という時点でそれは虚構であり、創作された物語であるとある種安心しきっている。

奥泉光の本はその安心を揺らがせる。
どこまでがフィクションなのか。

でも次第にそんなこともどうでも良い気もしてくる。
ミュージシャンが実在するかどうかはどっちでもいいのだ。

物語の中だけでなく、作者が自作を語るような口ぶりで出てくるところなども、
作品の世界とそのメタレベルの世界を作中に存在させており、
読んでる方は全部素直に信じたくなってしまう。

久しぶりに緊張感のある読書だったけれど、
これと言い、『東京自叙伝』と言い、全て鵜呑みにする人が出てくるんじゃないかしら。

虫樹音楽集 (集英社文庫)

虫樹音楽集 (集英社文庫)