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読んだ本にまつわる話を書き綴っていくことにしました

優秀な検事というのはコミュニケーション力の塊みたいな人なんだなぁ 大澤孝征/元検事が明かす「口の割らせ方」

人生、30も半ばを過ぎてくると、自分の一生の中で、まず体験することはないだろうということは見えてくる。
例えばこれから司法試験受けて弁護士とか検事になるとかはまずないだろうな、と思うわけ。

そんな自分が体験しないであろう世界のことを読んでみるのも読書の愉しみと言えましょう。

本書は元検事の大澤孝征さんが書いた検事時代のエピソード集。
検事の取り調べなんてドラマでの「さぁ、吐け」みたいなイメージしかないけれど
実際はそんなことで自白が取れるわけではないわけで。

結局、優秀な検事というのはコミュニケーション力の塊みたいな人なんだなぁ、というのが素直な感想で、
本書は普通の人の普通の生活の中でも有効なコミュニケーション術の本でもある。

元検事が明かす「口の割らせ方」(小学館新書)

元検事が明かす「口の割らせ方」(小学館新書)

それでもやっぱり面白いのは検事時代の各種エピソードだろう。
刑務所では犯した罪によって暗黙のヒエラルキーがあるという話、
なんとなく何かで見聞きしたことはあったけれど、実際にあるのね、とも思うし、
それはヤクザが泣きを入れるほどある種の厳格さを持っているというのは面白い。

自分は強姦なんかしていないとさんざん騒いで否認を続けた後、男は何と泣きを入れてきたのです。 「検事さん、強姦だけは勘弁してください、ハジキでも覚醒剤でも何でも出しますから」  男が話したところによれば、刑務所の中には序列があるのだそうです。殺人などの大罪を犯した者は一目置かれ、ヤクザも、自分のためではなく組のために罪を犯したということで扱いは上になる。そんな中で、一番下に見られるのは性犯罪者です。特に強姦で捕まった者は、刑務所に入ると、軽蔑されていじめられるのだそうです。しかもヤクザのくせに強姦なんてしたら、いじめられるに決まっている。また出所後も、ヤクザとして男を張って生きられなくなる。「検事さん、何とかしてください」と、最後には泣き落としで私にすがってきたのです。

当たり前のことだが犯罪者も人であり、人である以上、承認欲求やメンツを守りたいというプライドを
持っているわけで、そういった心理をうまく衝いたコミュニケーションが検事の取り調べなんだな。

そして、朴訥な夫婦が繰り広げる法廷での愛の物語はすげー面白かった。
まさかこういう展開になるとはその場にいた誰も予想だにしなかっただろうな。

検事に加え、裁判官までが厳しく追及してきます。
「奥さん。こんな事件を繰り返す旦那さんは、女として許せないとは思いませんか?」
「はい」
「はっきり言って、人でなしですよね」
「そうですね」
「あなたは旦那が戻ってきたら監督すると言っていますけど、こんな人にはいつか愛想が尽きるんじゃないですか? 監督すると言ったって無理でしょう」
「いえ、私がきちんと監督します」
「なぜですか。なぜ、あなたはこんな人を監督できると言い切れるんですか」
 裁判官にそう言われた彼女はつと顔を上げ、とっさに何と叫んだか。それは私にも予想できない言葉でした。
「好きだからです!」  
五十代の女性の、そのまっすぐな言葉に裁判官も検事も一瞬、言葉を失いました。しかし、裁判官はなおも食い下がります。
「では、あなたが監督していて、旦那さんが再びこんな事件を起こしたらどうしますか」
 こういうとき、普通は「離婚します」とか、「そのときには見放します」と答える人が多いのです。
でも、彼女は真剣な顔をして、こう言いました。

「私も刑務所に入ります、一緒に!」

事実は小説よりも奇なり。

元検事が明かす「口の割らせ方」(小学館新書)

元検事が明かす「口の割らせ方」(小学館新書)