Book Select 本を選び、本に選ばれる

読んだ本にまつわる話を書き綴っていくことにしました。マンガが大半を占めていますが小説も好き。マンガはコミックで読む派。本は買って読む派なので常にお金と収納が足りません。例年1000冊以上コミック読んでます。ちなみに当ブログのアフィリエイト収入は昔は1000円くらいいった時もあったけど、今では月200円くらいです(笑)みんなあんまりマンガは買わないんだなぁ。。収入があった場合はすべて本の購入に充てられます。

ロスチャイルド家を飛び出して自由に生きた女性の物語 ハナ・ロスチャイルド/パノニカ

ジャズのパトロン、ニカ男爵夫人。

チャーリー・パーカーは彼女のホテルの部屋で死んだし、
セロニアス・モンクの個人的なパトロンとしても活動していた。

そんなニカは実はロスチャイルド家のご令嬢。

でも男性相続で女性はかなり飾りとしての人生を強いられる世界に
我慢ならず、飛び出してきた人でもある。

なのでこれはモダンジャズの黎明期にミュージシャンたちを支えたパトロンの記録でありつつ、
一人の女性が閉鎖的な家庭を飛び出て自由に生きた話でもある。
陰謀論などで語られることの多いロスチャイルド家の内幕を描いた物語でもあるし、
ユダヤ人の迫害と黒人差別の記録でもある。


規則正しすぎる生活。
16歳まで親と一緒に夕食をとることはない、とか。
前半はロスチャイルド家の日常。

実際にニカがニューヨークでパトロンとして活動していた時期の話は
後半以降で意外とボリューム少ないんだよね。

伝記や評伝はその人の人生の記録を通じて、
意外な事実や人間性を垣間見えるところが好きなんだけど、
ただ、大抵の伝記は小説よりもそういう人間性に触れる瞬間、みたいなものの
密度は薄い気がする。
まぁ、それを描き出そうとして書かれたものではないので当然なのだが。

人間の決して綺麗事だけではないエゴとか感情とか、
そういうのが好きなんだなぁ、というのが年を経るにつれ
強く自覚できるようになってきた。


パノニカ――ジャズ男爵夫人の謎を追う

パノニカ――ジャズ男爵夫人の謎を追う

他者との関係は上滑りを続けながら、人はそれぞれの人生を生きる。 絲山秋子/御社のチャラ男

しがない食品会社の三芳部長は、縁故入社のチャラ男。

そのチャラ男を軸にしつつ、一人一人の会社のメンバーをフォーカスしていく群像劇。

ある出来事も、立場変われば違って見えたり、
それぞれの立場での考えや意図が少しずつずれてすれ違っている様を巧妙に描く。

人と人の意思伝達とか、わかり合うことってまぁとても難しいことであるよ、とも思うし、
それでもお互いずれ続けながら、現実は進み続ける。

他者との関係は上滑りを続けながら、人はそれぞれの人生を生きるのよね。

御社のチャラ男

御社のチャラ男

肉体は物質ではなく時間。 グスタフ・マイリンク/ナペルス枢機卿 バベルの図書館 12

オーストリアの小説家、『ゴーレム』や『緑の顔』といった幻想小説が代表作。
しかしいまいちすんなり入って来なかった・・・

私たちは時間で出来た構成物なのであり、肉体とは、物質であるかのようにみえて、流れ去っていった時間以外のなにものでもないのです。
P.32

ナペルス枢機卿 (バベルの図書館 12)

ナペルス枢機卿 (バベルの図書館 12)


しかしそれでも山尾悠子さんが推薦している作品集と、
『ゴーレム』の2冊は気になるな。

ワルプルギスの夜:マイリンク幻想小説集

ワルプルギスの夜:マイリンク幻想小説集

ゴーレム (白水Uブックス)

ゴーレム (白水Uブックス)

白水Uブックスの『ゴーレム』は紙はすごくプレミアついてるみたいね。
Kindle版あるなら読んでみようかな・・・

なんというかこういう海外の幻想小説って根幹に
「神秘」とか「魔術」的なものがあるんだけど、
その前提となる文化、宗教、世界観がいまいちわかってないから
しっくりこないのかしらね、と思ったり。

色々な喪失とその余韻に文学感じちゃう短編集 ハーラン・エリスン/愛なんてセックスの書き間違い

SF素人なのでハーラン・エリスンがSF界でどんだけのもんなのかは知らない。
結構すごいらしいけど。

で、これはそんなエリスンの非SFの作品を集めた短編集。

タイトルがかっこいいよね。


愛なんてセックスの書き間違い (未来の文学)

愛なんてセックスの書き間違い (未来の文学)

てっきりなんかの短編作品のタイトルを署名にしたのかと思ったらそうではなくて、
タイトルは「パンキーとイェール大出の男たち」という作品の冒頭に出てくる台詞。

大物作家のソローキンがイェール大学を出た若者二人と飲みに行って色んな体験をする話なんだけど、
ソローキンの共感力が高すぎて相手の思考を読み解いてしまうっていう設定が面白かった。
まぁそれも序盤だけで物語上重要なわけでもないんだけど、
人の典型的な思考パターンとか、好きなんだよね。

全体的に閉塞感や喪失感にまみれた作品が多い。
社会の底辺を描いたようなものも多くて、悲惨な境遇の人間たちの悲惨な物語だったりするのは、
読んでいてこちらも少し重苦しい気分になる。

そして何かと喪失を描くのよ。
その喪失の余韻に文学感じちゃうのよ。

仲間の女が妊娠したのでメキシコまで行って闇医者に堕胎してもらう
「ジェニーはおまえのものでもおれのものでもない」とかはわかりやすい喪失の物語。


父親を探し出して殺そうとする少年を描いた「第四戒なし」も面白い。
少年は父親を見つけ出し殺し続ける物語。狂気の描かれ方がとても良い。

近所の不良共に悩まされ、妻が襲われた大人の復讐劇「ガキの遊びじゃない」もいけてる。
大人は静かに報復する。
何も知らぬまま死ぬバカと計画的に死へと導く大人のコントラストが秀逸。

愛なんてセックスの書き間違い (未来の文学)

愛なんてセックスの書き間違い (未来の文学)

綺麗事で済まさない、人の弱さや醜さもしっかり描くファンタジー。 小野不由美/十二国記

年末からただひたすらに十二国記を読み耽っていました。
18年ぶりの新作が刊行されたと話題だったのだけど、
これまで何度か気になりつつ見送ってきた自分としては今こそ着手する時かな、と。

ファンタジーというのはここではない別の世界へ行って戻ってくるお話、という定義を
何かで読んだことがある。
ナルニア国とかが典型だけど、こちらから、あちらへ行き、帰還する。

確かに十二国記は1巻では女子高生が別の世界へ赴く物語なので、
古典的なファンタジーの定義に則った物語。

ただ、巻によって色々な表情を見せる。
謎解き要素もあれば、貴種流離譚の時もある。

物語の色々な型を使い分け、様々なキャラクターの群像劇を通じながら、
人間の色々な側面を描き出す大傑作だった。

無難に優等生的で八方美人なコミュニケーションを
取っていた主人公が裏では疎まれていたり。

わかりやすい正義を掲げる善人キャラがその実、ものすごく醜悪だったり。

王になり善政を敷こうとしても、官僚を掌握できず何もできずにお飾りにされたり、
綺麗事では済まない人の弱さや醜さを巧みに描いているところが素晴らしかった。

月の影  影の海 (上) 十二国記 1 (新潮文庫)

月の影 影の海 (上) 十二国記 1 (新潮文庫)

  • 作者:小野 不由美
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2012/06/27
  • メディア: 文庫

幸せや楽しみは自ら見出すものであるなぁ。エイモア・トールズ/モスクワの伯爵

ずっと同じホテルに軟禁されたら・・・
それはさぞ退屈で代わり映えのしない日常。
苦痛を伴う日々になるかもしれない。

モスクワの伯爵

モスクワの伯爵

でも、この伯爵は違う。
軟禁生活の中にも人生の楽しみを見出し、
決して人としての尊厳を失わない。

幸せや楽しみは自ら見出すものであることを改めて感じつつ、
物語の落ち着いた語り口も魅力的。

実は章立てや経過時間などに数字のこだわりが詰まっているという技巧を凝らした作品でもあるらしい。

のんびりとダラダラ、いつまでも読んでいたい名作。

ヒーローは名詞ではなく、動詞 トラヴィス・スミス/アメコミヒーローの倫理学

DC、マーベルのスーパーヒーロー10人の中で、
現代社会で最も望ましい特製のモデルになるのは誰かを検証する、という本。
空想科学読本的な雑学系ではなく、ヒーローの倫理を考察する。

MCU作品全て見て臨んだけど、
それだけじゃちょっと知識不足な感がある。
著者は86年にX-MENのコミックを買って以来、
新刊を買い続けているらしいアメコミオタクなので、
正直嬉々として語るのだけどついていけないところも多い。

アメコミヒーローの倫理学 10人のスーパーヒーローによる世界を救う10の方法

アメコミヒーローの倫理学 10人のスーパーヒーローによる世界を救う10の方法

それでも理解できる箇所で興味深いのは、
それぞれのヒーローのスタンスが全然違うところ。

キャプテン・アメリカの性格は生まれながらのヒーロー、
力は弱くても心はヒーローだった彼が力を手に入れた。
ヒーローであることに疑問も持たなそう。

対するアイアンマンは、キャプテンのような根っからのヒーローではない。
彼は、皆が思うヒーローを演じているし、演じようとしている。
自分が根っからのヒーローではないことも自覚していると思う。

ヒーローを演じた結果、ヒーロー的な行動を取っている。
そこにはヒーロとして生きたいという願望や憧れもあるのかも。
だからこそ、アイアンマンは葛藤するし、時にハメを外す。
ヒーローである前に人間、そんなところが魅力的なんだよな。

また、バットマンに関して、ブルース・ウェインバットマンが変装した姿、と言っているのも面白い。
本質はバットマンの方にあり、バットマンが世を忍ぶ仮の姿を撮っているのがブルース・ウェイン

あとがきに書いてあったロバート・ダウニーJr.の名言も良かった。

私たち全員が何かしらヒーローらしいことをしていると思いますが、ヒーローは名詞ではなく、動詞なのです。
P.292

アメコミヒーローの倫理学 10人のスーパーヒーローによる世界を救う10の方法

アメコミヒーローの倫理学 10人のスーパーヒーローによる世界を救う10の方法