Book Select 本を選び、本に選ばれる

読んだ本にまつわる話を書き綴っていくことにしました。マンガが大半を占めていますが小説も好き。マンガはコミックで読む派。本は買って読む派なので常にお金と収納が足りません。例年1000冊以上コミック読んでます。ちなみに当ブログのアフィリエイト収入は昔は1000円くらいいった時もあったけど、今では月200円くらいです(笑)みんなあんまりマンガは買わないんだなぁ。。収入があった場合はすべて本の購入に充てられます。

ノンキャリアの賄賂疑惑から、官房機密費をめぐる巨額の横領事件へ 清武英利/石つぶて

これは主に汚職を取り締まる警視庁捜査二課の一時代のルポ。
外務省のノンキャリアが贈収賄に絡んでいる、そんな情報提供からすべては始まった。

ところが、捜査を進めるうちに、その官僚が扱っているのは想像以上にヤバい金だったことが判明。
そう、総理の外遊などを取り仕切る際の官房機密費の横領だったのだっていう展開。

事実は小説より奇なりとはよくいったもので、本当に下手な推理小説なんかよりも面白い。

石つぶて 警視庁 二課刑事の残したもの

石つぶて 警視庁 二課刑事の残したもの

本書は外務省のノンキャリア、松尾が起こした実際の事件の捜査ルポ。
収賄や横領といった組織の闇を調査する捜査二課をリアルに描きながら、
同時にその二課の文化は今では失われてしまっていることもほのめかしている。

上司と言えども情報源は明かさない、どこで何をしているかは同僚にも悟られないように行動し、
いよいよ、というタイミングまで何を調べているのかも秘匿しながら進む世界(だった)。

彼は「情報はナマモノで、一日遅れると腐って死んでしまうものもある」と信じて疑わない。鮮魚のようなものだ。だから、上司の叱責を恐れて取材源から足が遠のくということは、生きた情報を殺すことだと思っていた。

ただ、現場に信じて任せて、放任する度量が今は失われてしまっている。
管理しようとすればするほど、情報は漏れる。
漏れるところに情報は集まらないし、ごく当たり前のように、これ以上調べるなという圧力もある様子。

本書には失われてしまったものを懐かしむ、一抹の寂寥感も漂っている。

一度捜査が始まると、職場に泊まり込み、数ヶ月家には帰れない、といった生活をしながら、
地道な捜査で不正を明らかにしていく様は、尊敬の念しかない。

この外務省の事件の端緒をつかんだ中才刑事は中でも飛び切り愚直な性格。

「一介の刑事にとって、喫茶店やホテルでのコーヒー代や軽食代は馬鹿にならないんだ。毎回一〇〇〇円とか二〇〇〇円するからね。中才は捜査費なんかあてにしないで、いつも自分で払っていた。これが意外に難しいことなんだよ。いい情報を取るのにきれいごとは言ってられなくてね、真面目な男や臆病な奴はたくさんいるんだが、仕事ができて卑しくない、という生き方はなかなかできないことなんだ」

なんか、もう頭がさがる。

と、同時に色々考えさせられる。

地位の高い収賄者に内心を語らせるには、人格を破壊するほどの執拗な取り調べが必要だ、と考える刑事である。中背で熊のように首をすくめ、取調室で「この野郎!」と凄んだり、べらんめえ調の胴間声で罵ったり、やくざの頭を殴ってでも(やくざが贈賄容疑者ということもあったのだ)自供を引き出そうとしたりする。中才同様にほとんど酒を飲めないのに、酒に酔ったようにまくしたてた。  役人、それも官僚のような知識層の良心を信じていないのだ。かつてあったにしても、それは前例踏襲や忖度、保身の塵の中に埋もれ、心の奥底に澱のように沈み込んでいて、魂を揺さぶらない限り、正体を現さないと思っている。

怒声が飛びかうような取り調べがいい事だとは思わないが、
一方で丁寧に聞いて答えてくれるんなら苦労しないというのもわかる。

取り調べの録画など、捜査の公明正大さを求めた結果、失ったものも大きいということ。

政治家や官僚といった権力者たちの不正が暴きづらくなっている世の中、一体どうすりゃいいんだろね。

ちなみに本書に出てくる羽生田さん自身が書いた本も出ているので合わせておすすめ。

警視庁捜査二課 (講談社+α文庫)

警視庁捜査二課 (講談社+α文庫)

この事件でも活躍したベテランが、定年間際に辞表。
そういう組織になってしまったということなのだろう。
こちらの本からも現状を憂う気持ちが伝わってくる。。

ちなみに本書の著作者、清武さんは
読売巨人軍の球団社長、GMナベツネともめて辞めた人という印象だったのだけど、
なんというか、素晴らしいルポを書く方なのだな。

これまでの著作も拝読したい。

石つぶて 警視庁 二課刑事の残したもの

石つぶて 警視庁 二課刑事の残したもの