バベルの図書館はボルヘスが世界中の物語を編んだアンソロジー。
旧バージョンは全30巻で、1冊1冊が函入りというこだわりの装丁。
大人になって小銭稼ぐようになったので、学生の頃欲しかったこのシリーズを大人買いしてみた。
- 作者: ホルヘ・ルイス・ボルヘス,ヴォルテール
- 出版社/メーカー: 国書刊行会
- 発売日: 1988/08/01
- メディア: 単行本
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ちなみに、数年前に新編バベルの図書館として、
全6巻が刊行されているので読むだけならこちらで十分。
- 作者: ホルヘ・ルイス・ボルヘス
- 出版社/メーカー: 国書刊行会
- 発売日: 2012/08/27
- メディア: 単行本
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で、ヴォルテールである。
スウィフトのガリバー旅行記からの着想なんて指摘されているから
なんのことかと思ったら、巨人が地球に来る話だった。
- 作者: スウィフト,Jonathan Swift,平井正穂
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 1980/10/16
- メディア: 文庫
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シリウス星の巨人が宇宙を旅して地球へ来るんだけど、
途中土星によって、土星の小人を連れて一緒に旅したりする。
巨人はめちゃくちゃでかくて地球に来ても人間が小さすぎて見えない。
ダイヤを組み合わせて顕微鏡にしてやっと見えたのが鯨だった、とかいうくだりも。
で、なんだかんだで人間と対話しだすんだけど、
人の傲慢さなどの風刺を効かせているお話。
まぁ、こんな奇想みたいなお話が18世紀の物語なんだよね、ヴォルテール、頭おかしいな。
他にも愛し合う男女が結ばれない物語がお好きなようで
『バビロンの王女』なんかは世界中を壮大な追いかけっこをしている。
モテモテ男が世界中の街を巡りながらいく先々で口説かれる。
男は自らの貞節を証明し続けるのだけど、なぜか「商業娘」(これも面白い訳語)に籠絡されてしまう。
そこで彼は娘と夜食を共にし、飲み食いするうちに日頃の節制を忘れ、そして食後は、美女に対して常に動ずることなく、心とろける媚態にも常に冷酷に振舞うと云う、かの誓いを忘れてしまったのだ。人間の弱さの、何と云う好例であることか!
P.244
で、よりによってたった1回のその現場を後から来たお姫様に見られて激怒されるっていうパターン。
あと、メムノンという作品では、完全完璧であろうと誓いをたてたメムノンがいきなりつまずく。
その描写が奥ゆかしくて面白い。
メムノンは今や極度に彼女の悩みごとに同情していた。かくも操正しく、かくも不幸せな女に、是非とも親切を尽してやりたいという思いが、ますます募る一方だったのである。話に熱が入る余り、彼らは知らず知らずいつの間にか向き合って座るのをやめ、その上いつしか二人の足も、もはや作法通りに組まれてはいなかった。メムノンが余りにぴたりと女に寄り添って忠告し、かつは余りに情深き助言を与えていたため、二人とも次第に悩みごとの相談どころではなく、もう何がどうなっているのやら、さっぱり解らなくなっていた。
P.20
落語とかもそうだけど、昔の人はおおらかだよね。
誓いを立てたり、意識高い側面も見せるんだけど、基本的に意志が弱い。
「何がどうなっているのやら、さっぱり解らなくなっていた。」とか言って、
自分ではどうしようもないことのように言うあたりがおおらかで面白い。
人知を超えた存在が信じられていたと言うのもあるかもしれないよね。
人の限界を知っていて、神などの人を超えた力の前には無力、どうしようもない、しょうがないって言う感覚。
このある種の諦念は、無駄な悩みを排除してくれる側面もあったのかな、と。
うじうじ悩んでてもしょうがないよね、神の思し召しじゃ、みたいな。
好きになっちゃうのはしょうがないのよ、キューピッドの矢が刺さっちゃったんだから、みたいな。
世の中意識高い人が溢れてるけど、たまにこの人何のために意識高いのかなって人もいるよね。
クリステンセンの『イノベーション・オブ・ライフ』じゃないけど、自分の幸せ(を感じるもの)が何なのか、
よーく考えることが大切だと思う。
僕は家族みんなが健康かつ円満で酒飲みながら本読んだりする時間がとれてれば幸せです。
- 作者: ホルヘ・ルイス・ボルヘス,ヴォルテール
- 出版社/メーカー: 国書刊行会
- 発売日: 1988/08/01
- メディア: 単行本
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