水野良さんデビュー30周年を迎えていた模様。
そして誰もが?知ってる日本のファンタジー小説の元祖的な
『ロードス島戦記』の著者である。
30~40代の人には懐かしい思い出となっているはず。
ロードス島の新作も書き下ろしていると聞き、
25年ぶりに再読してみたりもした。
その後最新作のグランクレスト戦記も読んでみたのだけど、
本質は変わらないなぁ、という感想。
グランクレスト戦記 10 始祖皇帝テオ (富士見ファンタジア文庫)
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『ロードス島戦記』は騎士パーンとエルフのディードリットを
中心にした戦記ものだったが、新作も再び戦記ものである。
【合本版】新装版 ロードス島戦記 全7巻 (角川スニーカー文庫)
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戦記物であるゆえなのだが、視点が客観的。
いや、水野良はやはりTRPGのゲームマスターなんだよね。
常に彼の視点はそこにある気がする。
だから、彼から紡ぎ出される物語は戦記物にならざるを得ないとも言えるんじゃないか。
なのであくまでも観察者的視点において語られるため、
いまいち特定のキャラクターに感情移入仕切れないという面はあると思う。
そしてだからこそなのだが、主人公とヒロインがいちゃつき出すと、
観察者としての私たち読者はついニヤニヤしてしまったり、
少し小っ恥ずかしい気分になったりもする。
これはロードス島戦記、グランクレスト戦記、両方に言えること。
主人公は理想に燃える好青年で、まっすぐな彼を支えるヒロインという構図も
新旧両作品の共通の構図。
主人公たちが統一や平和を求めるのに対して、敵は常にどちらかに与せず、混沌というバランスを
求めるという共通点はもはや水野良の作家性というか、テーマなんじゃないかと思う。
変わらないなぁ、という意味でも面白いし、
ある一つの勢力によってもたらされる秩序こそ終わりの始まりというテーマは、
現代においてもなお重要なテーマだと思う。
要するに多様性=ダイバーシティが重要なのよね。
1つの価値観で世界が染め上げられるということは、
決して良いことではない。
昔はそういう平和な時代があったけど、その末路は文明の崩壊へと繋がっていて、
むしろ複数の勢力が争い合う均衡こそが重要だという価値観は、
ロードス島の灰色の魔女のミッションであり、グランクレストにおいてはパンドラの理念でもある。
それでも理想を追い求める主人公たちの奮闘を描くわけだが、
彼らのゴールは終わりの始まりのはずなのよね。
だから、本当は、その後、再び世界が終わりに
向かっていく様も見てみたい、という暗い欲求も持っている。
ハッピーエンド、大団円の後に始まる緩慢な地獄、
それを書かれたら本当にやばい作品だな、と思うのだけど、
そこまで踏み込まないのも健全な水野良作品の特徴なのだとも言える。
水野良は基本的に良い人なんだろうなぁ。
全般的に、性格がいいというか、綺麗な話が多い気がする。
ここで比較するのもなんだけど、
アルスラーン戦記や銀河英雄伝説を書いた皆殺しの田中こと田中芳樹の方が、
性格がひねくれていると思うし、それがまた味わい深いポイントになっていたりもするんだよね。
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そういや、銀英伝も外伝読んでないな。
銀河英雄伝説 外伝 文庫 全9巻完結セット (徳間デュアル文庫)
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水野良もグランクレスト戦記ではちょっとだけダークサイドに踏み込んでいて、
物語上重要な女性キャラの純潔が奪われる展開をするのだけど、
正直それが絶対に必要なエピソードだとは最後まで思えなかった。
なんとなく偽悪的というか、わかりやすい衝撃のための演出のような気がしていて、
なんからしくないなぁ、と思ったことは妙に印象に残っている。