Book Select 本を選び、本に選ばれる

読んだ本にまつわる話を書き綴っていくことにしました。マンガが大半を占めていますが小説も好き。マンガはコミックで読む派。本は買って読む派なので常にお金と収納が足りません。例年1000冊以上コミック読んでます。ちなみに当ブログのアフィリエイト収入は昔は1000円くらいいった時もあったけど、今では月200円くらいです(笑)みんなあんまりマンガは買わないんだなぁ。。収入があった場合はすべて本の購入に充てられます。

雑多な知識をエンタメ小説に昇華させる、巧みなトリビア小説家。 中島らも/ガダラの豚

中島らもは、なんとなく読まずに来た。
だから長編小説はこれが初めて。

新興宗教や奇跡、超能力といった非科学的なものの化けの皮をはぎつつ、
アフリカの呪術といった非科学的なものの力に襲われる、という構図は良くできている。

読後の感想としては、この人、荒俣宏みたいってこと。
この作品は『帝都物語』と同じ匂いがした。

博覧強記で、色んな知識を引っ張り込んで、
そいつらをごった煮にして1つのエンターテイメント小説を
作り上げている感じ。

その雑学の活かし方が、この作品のようにしっかりと
テーマを持たせて整理されているから、面白いんだろう。

ガダラの豚〈1〉 (集英社文庫)

ガダラの豚〈1〉 (集英社文庫)

ガダラの豚〈2〉 (集英社文庫)

ガダラの豚〈2〉 (集英社文庫)

ガダラの豚〈3〉 (集英社文庫)

ガダラの豚〈3〉 (集英社文庫)


職業作家

読んでみて思うのは、よく考え、調べられて作られている小説だということ。
それが悪いことだとは言わないが、なんとなく一昔前のサブカル好きを熱狂させた
無頼で自由な作家のイメージとちょっと違う。
あくまでも商品としてちゃんと成立する物語をまとめられる人だってことが、
読んでみて凄く良くわかった。

膨大かつマニアックな知識を、エンタテイメント小説に昇華できるってのは、
とても凄い才能。そしてここを入口にして、色んな好奇心を刺激されていくと、
中島らもが原点、みたいな感じの人になるんだろうな。


だからちょっといわゆる文芸ものとは違う

読後、言葉で表現しづらい感覚に囚われるような文学作品とは全然違う。
どっちが優れているとかではないのだけど、
あの分かりにくさと、むしろその語り得ぬものを語ろうとする行為とは
全然違うってことがわかった。
気楽に読めて、雑学的な刺激が得られるって所で
たまに読んでみるのは面白いかも、というのが正直な感想。


呪術の話なんかは面白い。

その土地に文化として伝承されているプリミティブなものって面白い。
呪術とかもそうだけど、宗教、信仰、禁忌、民話、神話の類。
そこには先人の知恵とか、人間の弱さ、強さ、ひっくるめた業みたいなものが
つまってる気がして。

「そんなにして人を呪う動機は何なんですか」
平等主義だよ」
平等主義?」
「一種の、負の平等主義だね。
牛を三頭しか持だない者は、
十頭持っている者に対して平等になろうとする」
「七頭呪い殺してしまうわけですね」
「つまりは”ねたみ″が考え方のベースにあるんだよ」
2巻 P.154

このアフリカの呪術の根底にはねたみがあるってのも凄く面白い。
そして非科学的な力の有無、真贋、みたいな話だけでなく、
呪術があらゆるもめ事の調整役として
果たしている役割があるって言う話も面白かった。
それは文化的なファクトであり、そういう知識が語られることで
荒唐無稽な話のリアリティを増す要素になっていると思う。


雑学って面白い

まぁ、色々あるけど結局雑学的な知識って面白い。
そういう知識をちゃんと物語に組み込む力は一読して感心した。

新興宗教の教祖が起こす奇跡の種明かしをしていくシーンは秀逸。
人は簡単に騙されてしまう。特に自分の目で見てしまって、説明がつかないものを信じ込む。
ヘンテコな宗教に意外とインテリがハマってしまうのはこれが最大の要因。
騙される訳が無い、トリックがあるに違いない、化けの皮をはがしてやる、と
思っている人に限って、暴けないトリックに出くわすと奇跡を認めてしまう。

本書でもそれでハマっちゃう人が出てくるんだけど、
奇跡、超能力の類いの裏側を解説してくれる。
例えば、灼熱の棒を掴んで火傷しなかった奇跡のトリックはこれ。

灼熱した鉄というものは水分を反発する性質があるんです。
人間の体も七十パーセントは水分でできています。
赤く灼けた鉄を素早くしごいても、鉄はまず第一に皮膚表面の水分をはぜ返す反応をします。
熱が伝導する前に手は離れてしまっている。
火傷のしようがないのです。
なまじ生焼けの鉄よりもむしろまっ赤に灼けた鉄のほうが都合がいいのです。
あとは実際にそれをやってみる勇気があるかどうかだけの問題ですな
1巻 P.219

まぁやってみようとは思わないけど、知ってしまえば何てことは無い話。

これも昔からある法術のひとつで”探湯”と呼ばれています。
煮え湯の中のものを取り出すのですが、一瞬のことなのでおわかりになったかどうか。
私が湯の中に入れたのは、てのひらまでです。
なにも肘まで煮え湯につけて、鍋の底のボールペンを取ったわけではない。
沸騰した湯は鍋の中で激しく対流してますから、
その流れにのってボールペンが表面まで浮き上がってくるのを取ったんです」
「それにしても熱いだろう」
「手を冷やしておけば大丈夫です」
1巻 P.220

手品って面白そう。

テクニックはいるのだろうけど、トリックって本当に面白い。
人の心理とか錯覚をうまく使っているものだから。
少し調べてみようかしら。

この作品には、すべての超能力は、
トリックを用いて再現できるという人物が
出てくるのだけど、確かにそんなような気がしないでもない。
ユリ・ゲラーが、トリックを暴かれて
本国での評判は地に落ちていた、なんて話もトリビアっぽくて面白い。
そう、トリビアっぽいんだな、この人。

ガダラの豚〈1〉 (集英社文庫)

ガダラの豚〈1〉 (集英社文庫)

ガダラの豚〈2〉 (集英社文庫)

ガダラの豚〈2〉 (集英社文庫)

ガダラの豚〈3〉 (集英社文庫)

ガダラの豚〈3〉 (集英社文庫)