Book Select 本を選び、本に選ばれる

読んだ本にまつわる話を書き綴っていくことにしました。マンガが大半を占めていますが小説も好き。マンガはコミックで読む派。本は買って読む派なので常にお金と収納が足りません。例年1000冊以上コミック読んでます。ちなみに当ブログのアフィリエイト収入は昔は1000円くらいいった時もあったけど、今では月200円くらいです(笑)みんなあんまりマンガは買わないんだなぁ。。収入があった場合はすべて本の購入に充てられます。

スター・ウォーズの映画つまんねって思ってる私をしてなにこれすごい面白いじゃんと思わせた傑作。 テリー・ブルックス/スター・ウォーズ エピソード1:ファントム・メナス

スター・ウォーズ、実は全然はまらなかった。

何度かブームが来る度に、映画を見直してみようとしてみた。
全世界であれだけ人気のエンターテインメント作品を全く面白いと思えない自分は何か大事なものを見落としてるのではないか?
小難しい作品ばかり評価するようなサブカルくそ野郎になっているのではないか、と自問自答しながら、レンタルした映画を観てみる。

しかし、やはりつまらないのだ。
僕にはどうしようもなくつまらない。

冗長な戦闘シーン、ブーンブーン、ピュンっピュンっ、どかーん。
追いかけたり追いかけられたりのチェイスがなぜあんなにずっと続くのか??ビュンビューン。

物語描写に割かれる時間が圧倒的に少なくてよく意味わからん。

あ、またスリリングな追いかけっこが始まったぞ、、、zzz

で、寝落ちしてしまったりする。

だからもう自分には、スター・ウォーズは楽しめないんだって諦めてた。

しかし、だ。

出会いは突然やってくる。

講談社文庫から小説が出ているではないですか。
映画を見ている限り、小説になりそうもない薄っぺらさなのだけど、
本当は重厚な物語が裏にあるのかもしれない、そう思った私はおもむろに読み始めたのでした。

そうしたら、これがすこぶる面白い!!

映画とは比べ物にならないほどの豊かな心理描写。
あぁ、そういう思いで行動していたのか、ということが丁寧に語られる。

アナキンがオビワンとパドメの関係を疑っていたなんて映画から読み取れないでしょ???

少なくともエピソード1〜3、アナキンがダークサイドに落ちていく物語は、完全なる心理劇なのだ。

シスの暗黒卿によって完璧に仕組まれた心理戦。
手の平で踊らされるアナキン。

少年の憧憬がそのまま恋愛になり、理解者かつ承認欲求を満たしてくれる存在であるパドメに執着。
禁じられた恋をも認め、見守ってくれる立ち位置を巧妙に演出するパルパティーン

肥大した承認欲求は不当な扱いを受けているという被害妄想に繋がり、
師であるオビ・ワン・ケノービへの不信と不満を募らせる。

まさに堕ちていく過程の心理が克明に記されている文学作品としての趣を感じる作品になっていて、映画の100倍面白い。

これを読んで、映画を見たら、寝落ちせずに見続けることができたが、
映画がやはりあまりにも薄っぺらいことが明らかにもなった。

しかし、本当に承認欲求とは恐ろしいものだよ。
誰かに認められたい、誰かに評価されたい、それって自分の喜びを他者に委ねているってことなんだよね。
自分の喜び、充足感を他人に委ねてしまえばしまうほど、自分の人生を生きられなくなる。
認められていないという不満ばかりが先に立つ。

他人など所詮他人でしかなく、自分も含め、人は皆、大切にできる人の数なんてたかが知れている。
その人にとって自分が家族や恋人、親友といったレベルで重要な位置付けでないならば、
その人から喜びを得ようとするのは正直不毛だし、不幸しか生まない。
皆、他人を満足させるために生きている訳ではないからね。

お互い勝手に楽しく生きよう、を人付き合いの基本にした方が楽しいよね。

アナキンもそうやって生きられたら、ジェダイもシスもほっといて、パドメとどっかでのんびり暮らせたんだと思うんだよね。

あと、アナキンて母はいるけど父はいないんだよね。
性交を伴わない受胎なのよ、まぁ明らかにキリスト的な生まれ方してる。
でもその救世主が俗世にまみれて、ひどく人間的にダークサイドに堕ちていく。

そして子を成し、物語は父親殺しのオイディプス的な物語へ繋がっていく訳だ。

小説はエピソード4以降よりも1〜3が秀逸な感じ。

スター・ウォーズファンはもちろんだけど、いまいちこれまで面白いと思えなかった人たちにこそ読んでほしい作品だったな。

今や昭和のラブホテルは文化遺産だ! 金益見/日本昭和ラブホテル大全&ラブホテル進化論

昭和のラブホテルはちょっとアホじゃないかというくらい
非日常で大掛かりな設備があったのだけど、今や法的にもそういったラブホテルは作れないらしく、
昭和のラブホは歴史的な文化遺産といっても過言ではない。

そういったラブホテルを写真に収め、記録したのが『日本昭和ラブホテル大全』だ。
そしてそういったラブホテルが生まれた歴史を丁寧に追ったのが『ラブホテル進化論』で、
両方合わせて読むとすこぶる面白い。

ラブホテル進化論 (文春新書)

ラブホテル進化論 (文春新書)

「ラブホ界のウォルト・ディズニー」=亜美伊 新

そもそも昭和のド派手な回転ベッドで鏡ばり、みたいなラブホは現行法では作れないらしい。
となると、残されたものを慈しむしかないということ。

乗り物ベッドなど数々の奇抜なデザインを生み出した
「ラブホ界のウォルト・ディズニー」という異名をもつデザイナー亜美伊 新の存在も本書を読んで初めて知った。

そもそもこの異名、凄すぎない?

「ラブホ界のウォルト・ディズニー」ってパンチ効きすぎだよね。
そんな亜美伊 新さんのオフィシャルサイトはこちら。
(ごく一部の作品が見られます)

www.ami-shin.com

正式な作品集とか出した方がいいと思うよ、ほんと。

かなり儲かる商売として広がった

1日に何回転もする訳で、やってみたら超儲かったって感じらしい。
それで儲かるからやってみない?みたいに一気に広がっていった模様。

経営者としては現金管理が悩みの種だったらしいけど、
部屋で払えるキャッシュディスペンサーが開発されてその悩みも解決されたとかいう
エピソードも非常に面白い。
それまでは来客数のエビデンスもない訳で、従業員がピンハネし放題だったってこと。
それでも儲かったってんだからすごい。


ラブホテル進化論 (文春新書)

ラブホテル進化論 (文春新書)

50年以上前の作品とは思えないSF初心者でも楽しめる、ロボットが相棒の推理もの。アイザック・アシモフ/鋼鉄都市

SFは全然詳しくない。
でもKindleで大規模セールがやっていたので、色々とオススメされている作品を買い漁ってみた。
鋼鉄都市はその中でも多くの人がオススメしていた作品で、
なんでもロボットとのバディものと聞いて興味を持った。

鋼鉄都市

鋼鉄都市

地球人の子孫ではあるのだけど、宇宙を支配している宇宙人。ロボットが活用され、人の仕事も奪われてきていて、地球人のロボットへの反感が高まっている世界で、ある日、宇宙人の惨殺事件が起きる。
その調査を命じられたのが主人公の刑事で、相棒がロボットのダニール。

このダニールは、ロボットであることが見分けられないくらい精巧に作られている。
一方、人間が扱うロボットは、人型でもロボットと見分けがつくように作られている。
そんなロボット然としたロボットに対しては嫌悪感を持つダニール。

「もちろん不満ですとも。あんな、人間の姿の最大公約数的なパロディを、同類と認めることは不可能です。地球の技術では、あれ以上のことはできないのですか?」 「むろんできると思うよ、ダニール。ただ、われわれは、相手が人間なのか、人間でないのか、わかるほうが好きなのさ」

でも人間は、区別をしたい。
あいつらは自分たちとは違うものだ、と言う区別。
境界線がないとアイデンティティが保てないのかな?
コミュニティの内と外の区別があるからこそ居心地の良いコミュニティが形成されるのか。
色々示唆に富むフレーズ。

そしてこれが50年前の作品だとは思えないくらい、現代の問題に通じる話が散りばめられている。

人間には、人間としての能力を持ったロボットを造ることはできないんだ。まして、よりまさったロボットなんて無理な話だ。美的センスとか、倫理観とか、信仰心を備えたロボットも造れない。電子頭脳は、唯物主義から一インチでも出ることはできないからね。  そんなことはできない相談で、ぜったいにできないのだ。われわれの脳を動かしているものがなにかを理解しないかぎり、できない。科学が測定できないものが存在するかぎりできない。美とはなにか、あるいは、良心とは、芸術とは、愛とは、神とは? われわれは永遠に、未知なるもののふちで足踏みしながら、理解できないものを理解しようとしている。そこが、われわれの人間たる所以なんだ。

これなんて、まさに新井紀子さんの本にも書いてあった今、AIと呼ばれているものの限界の話に通じる。

digima.hatenablog.jp

我々の脳を動かしているもの、は未だに解明されてない。
だから現時点でのAI万能説はただの煽り。
飛躍的に進化していることは間違いないし、ひょっとすると理屈のわからないままに
再現できてしまうこともあるのやもしれないが・・・

普段読み慣れていないSFだけど、意外と面白いもんなんだな、と。

他にも、世の中どこにでもある不条理をロボットであるダニールが論理的に語る所とかが、このキャラを魅力的にしている。
例えばこう言うセリフ。

「正義には段階があります、イライジャ。小さな正義が大きな正義と相容れないとき、小さな正義は負けるのです」

この身もふたもない話をする相棒、と言う設定は結構好みだし、読者も感情移入しやすい仕掛け。
それによって、そうだよね簡単に言ってくれるな、と思いながらも、
そうは言ってもさぁ、という感情も掻き立てられる訳で、まさに読者と主人公を同じ思いにしやすいから。

しかしSFと言う広大なジャンルもまた面白い本が多そうで時間がいくらあっても足りないね。


鋼鉄都市

鋼鉄都市

絶対的な存在を演じざるを得なくなったサラリーマンの葛藤! 丸山くがね/オーバーロード

ラノベってほとんど読んだことなかったんだけど、
この本は前から気になってた。
想定がいわゆるラノベと全然違う重苦しい雰囲気だし、
1冊あたりの分厚さがすごくて、書店の棚に並んでるさまが圧巻だったから。

で、いつか読もうと思ってたのを息抜きがわりに読み出したって感じ。
そしたらこれがすこぶる面白い!


アニメ化もされている人気作品らしいから、
そちらで楽しんだ方がお手軽なのかもしれないけれど、
僕は活字が大好きなので本で楽しむ。

物語はしがないサラリーマンが、昔ハマったネトゲのサービス終了日に
久しぶりにログイン、思い出に浸ってたんだけど、
終了時刻が来てもゲームが終わらない。
なぜ?と思っているうちにゲームの中に転生していて・・・というお話。

ゲーム内での自分は絶対的な力を持った君主であり、
NPC(ノンプレイヤーキャラクター)たちは絶対の忠誠を誓ってくる。

その絶対的な存在として振る舞わざるを得ない苦悩、
部下のマネジメントをまるで現実世界の感覚で考え悩む様子が、読んでいて楽しい。

絶対的な知性を持っていると思われているから、
いかがいたしましょうって聞かれてなんとなく言ったことがなるほど、さすが、とかなっちゃう。
なるべく部下に発言させようとするんだけど、誤魔化しきれず、
本当はどうしたらいいのかもわからずに行動する羽目になったり・・・。

この困った状況を回避しようと誤魔化そうとするんだけど、
かえってまた困った状況になってしまうみたいな連鎖。
これって面白さの1つの型だよね。

そして戦えば圧倒的に強い。
この圧倒的に強いというのも自分が好きなポイント。
RPGとかでも圧倒的な強さでラスボスを蹂躙するのとかスカッとするタイプ。

なのでたった一人の力で一国の軍を蹂躙するのとかなんかワクワクしちゃうんだよなー。
そしてもれなくなんかRPGやりたくなって来ちゃった。。。

自分の欲望に素直な飽くなき探求。ハッピー・オーラ、ハッピー・エレガント、ハッピー・ナイスボディ。 野崎幸介/紀州のドン・ファン

買ってずっと積ん読になっていたのだけど、
先日お亡くなりになったそうで、ご冥福をお祈りします。

金を稼いでいい女を抱くという、己の欲望を素直に表出している姿は、
なんとも清々しい。

今ドームの訪問販売から一代で財をなし、
金の力で良い女を抱きまくるという三流小説じみた物語を
実際に生きた人間のドキュメント。

事実は小説より奇なり、を体現するような本だった。



ただ、札束の力だけでなく、創意工夫があるのが面白い。
例えば名刺は特殊な名刺で中に1万円を入れておくんだそうな。
飛行機乗ったら好みのCAに挨拶がわりに名刺を渡す。

そうすると、あとでお金が入っていることに気づき、
困ります、いただけません、と連絡がもらえる、という仕組み。
そこから口説くというなんとも考え抜かれた戦略。

1回30万円程度のお小遣いで抱いていたらしいのだけど、
これくらい数こなしてると、変な執着もなくしつこくなくてアッサリしてるのかもね。

個人的に気に入ったのは、ナンパするときの声の掛け方。

「ハッピー・オーラ、ハッピー・エレガント、ハッピー・ナイスボディ。あなたとデートしたい、エッチしたい」って
声かけるらしいのよ。
もうなんだか意味わからないけど陽気なおっさんだし、
自分の要求をストレートに伝えるというのは
とても大切なことなのかもしれない。


↑結婚してからの続編もあるらしいので気が向いたらそっちも読んでみようかな。


ふとした瞬間にあらわれる豊かな表現との出会いを楽しむ。 フランティシェク・クプカ/カールシュタイン城夜話

チェコ版『千夜一夜物語』と評される物語。

毒を盛られた王が城で養生している間、三人の家臣と夜毎に
女の話をして無聊を慰める、という形式。

王も自分の想い出話を語り出すのがちと新鮮。
王だけはいつも自分の女の話。

カールシュタイン城夜話

カールシュタイン城夜話

特別面白いお話があるわけでもないのだけど、宗教や文化という土台の上に成り立つ、
古風な表現が興味深い。

例えば、悪魔はとても性欲に満ちた存在として表現される。

彼女は昼も夕方も悪魔と同じくらい彼と愛し合っているが、世間は彼女が淑徳に満ちていると思っているのだ。
P.85

他にも、薔薇が美しいものの象徴として度々登場したり、とか。
中でも秀逸だなと思ったのは、口づけの描写。

彼女がもう一度私に笑いかけ、私は彼女の腰を抱いて口づけをした。この口づけは四枚の薔薇の花びらが触れ合ったようだった。
P.96

こういった、魅力を伝える表現がなんとも奥ゆかしく、趣深い。
さらに、女性が歩くだけでも、こうなる。

彼女が門を出ればさながら早春がやって来たかのようで、水溜まりは虹のように輝き、いかめしい壁は野薔薇のように身を装った。
P.171

このくどさもまた味である。

そして本作で一番好きなシーンは、苺でできた白いスカートの染みを口づけで吸い取ろうとするシーン。

私はスカートの前に跪き、近づいてその染みを眺めた。その時この染みを着物から吸い取ろうという考えが浮かんだ。私は彼女にそうさせてほしいと言った。彼女は本当におまじないで取るのだと思って頷いた。白いスカートの赤いところに触れた時、私は唇の下に尖った暖かい女の子の膝小僧があるのを感じた。それは幻であり、思いもかけない謎であり、美しく魅惑的だったので、私は飛び上がって彼女を見た。きっとその目に私の興奮を見て取ったのだろう、どうして途中でやめたの、と聞いた。
P.94

ここには瑞々しい性の目覚めみたいなものが表現されているね。
物語がどうというよりは、こう言った豊かな表現にふと出会えることを楽しんだ本。

カールシュタイン城夜話

カールシュタイン城夜話

ノンキャリアの賄賂疑惑から、官房機密費をめぐる巨額の横領事件へ 清武英利/石つぶて

これは主に汚職を取り締まる警視庁捜査二課の一時代のルポ。
外務省のノンキャリアが贈収賄に絡んでいる、そんな情報提供からすべては始まった。

ところが、捜査を進めるうちに、その官僚が扱っているのは想像以上にヤバい金だったことが判明。
そう、総理の外遊などを取り仕切る際の官房機密費の横領だったのだっていう展開。

事実は小説より奇なりとはよくいったもので、本当に下手な推理小説なんかよりも面白い。

石つぶて 警視庁 二課刑事の残したもの

石つぶて 警視庁 二課刑事の残したもの

本書は外務省のノンキャリア、松尾が起こした実際の事件の捜査ルポ。
収賄や横領といった組織の闇を調査する捜査二課をリアルに描きながら、
同時にその二課の文化は今では失われてしまっていることもほのめかしている。

上司と言えども情報源は明かさない、どこで何をしているかは同僚にも悟られないように行動し、
いよいよ、というタイミングまで何を調べているのかも秘匿しながら進む世界(だった)。

彼は「情報はナマモノで、一日遅れると腐って死んでしまうものもある」と信じて疑わない。鮮魚のようなものだ。だから、上司の叱責を恐れて取材源から足が遠のくということは、生きた情報を殺すことだと思っていた。

ただ、現場に信じて任せて、放任する度量が今は失われてしまっている。
管理しようとすればするほど、情報は漏れる。
漏れるところに情報は集まらないし、ごく当たり前のように、これ以上調べるなという圧力もある様子。

本書には失われてしまったものを懐かしむ、一抹の寂寥感も漂っている。

一度捜査が始まると、職場に泊まり込み、数ヶ月家には帰れない、といった生活をしながら、
地道な捜査で不正を明らかにしていく様は、尊敬の念しかない。

この外務省の事件の端緒をつかんだ中才刑事は中でも飛び切り愚直な性格。

「一介の刑事にとって、喫茶店やホテルでのコーヒー代や軽食代は馬鹿にならないんだ。毎回一〇〇〇円とか二〇〇〇円するからね。中才は捜査費なんかあてにしないで、いつも自分で払っていた。これが意外に難しいことなんだよ。いい情報を取るのにきれいごとは言ってられなくてね、真面目な男や臆病な奴はたくさんいるんだが、仕事ができて卑しくない、という生き方はなかなかできないことなんだ」

なんか、もう頭がさがる。

と、同時に色々考えさせられる。

地位の高い収賄者に内心を語らせるには、人格を破壊するほどの執拗な取り調べが必要だ、と考える刑事である。中背で熊のように首をすくめ、取調室で「この野郎!」と凄んだり、べらんめえ調の胴間声で罵ったり、やくざの頭を殴ってでも(やくざが贈賄容疑者ということもあったのだ)自供を引き出そうとしたりする。中才同様にほとんど酒を飲めないのに、酒に酔ったようにまくしたてた。  役人、それも官僚のような知識層の良心を信じていないのだ。かつてあったにしても、それは前例踏襲や忖度、保身の塵の中に埋もれ、心の奥底に澱のように沈み込んでいて、魂を揺さぶらない限り、正体を現さないと思っている。

怒声が飛びかうような取り調べがいい事だとは思わないが、
一方で丁寧に聞いて答えてくれるんなら苦労しないというのもわかる。

取り調べの録画など、捜査の公明正大さを求めた結果、失ったものも大きいということ。

政治家や官僚といった権力者たちの不正が暴きづらくなっている世の中、一体どうすりゃいいんだろね。

ちなみに本書に出てくる羽生田さん自身が書いた本も出ているので合わせておすすめ。

警視庁捜査二課 (講談社+α文庫)

警視庁捜査二課 (講談社+α文庫)

この事件でも活躍したベテランが、定年間際に辞表。
そういう組織になってしまったということなのだろう。
こちらの本からも現状を憂う気持ちが伝わってくる。。

ちなみに本書の著作者、清武さんは
読売巨人軍の球団社長、GMナベツネともめて辞めた人という印象だったのだけど、
なんというか、素晴らしいルポを書く方なのだな。

これまでの著作も拝読したい。

石つぶて 警視庁 二課刑事の残したもの

石つぶて 警視庁 二課刑事の残したもの