Book Select 本を選び、本に選ばれる

読んだ本にまつわる話を書き綴っていくことにしました。マンガが大半を占めていますが小説も好き。マンガはコミックで読む派。本は買って読む派なので常にお金と収納が足りません。例年1000冊以上コミック読んでます。ちなみに当ブログのアフィリエイト収入は昔は1000円くらいいった時もあったけど、今では月200円くらいです(笑)みんなあんまりマンガは買わないんだなぁ。。収入があった場合はすべて本の購入に充てられます。

アンドロイドの自我、アイデンティティといったテーマを官能小説の皮で包んだような仕上がり。 小川一水/天冥の標 Ⅳ 機械じかけの子息たち

第四部はLoversたちの物語。

ラゴスはいかにしてラゴスになったかというこれまた
Loversの原形が成立する所の物語なんだけど、
最後までラゴスは脇役、のように見えて最後はやっぱりラゴスの物語なんだよね。

性欲処理用に作られた人造人間、アンドロイドがLoversたちなんだけど、
まぁそういうテーマだからここぞとばかり官能小説的な型を楽しんでいる。

アンドロイドの自我、アイデンティティといった
ブレードランナー的なテーマを官能小説の皮で包んだような仕上がり。

こうやって色々な時代の物語を巡りながら、
やがてメニー・メニー・シープにたどり着き、第一部の時系列に戻ってくるんだろうか。

各種族の救世群、アンチヨークス、Loversと各勢力の物語を読んだ今、
すでにまた第一部が読みたくなってきている。

巧みな大作だな。

第三部は少年の成長物語でもある。 小川一水/天冥の標 Ⅲ アウレーリア一統

第一部で出てきたアンチヨークス=海の一統のご先祖様のお話。

救世群に続き、アンチヨークスの先祖の物語はこれまた第一部の伏線に
そっと触れながら進んでいく。

関係は明示されないけれど、第1部で地下で発見したドロテアと同一名称の遺跡が出てきたり。
ご先祖様が住んでた街がセナーセーであることもわかった。
だからメニー・メニー・シープに移住した時に故郷の街の名前をつけたのかな??と憶測が広がる。

そして本作の主人公、アダムス・アウレーリアは中性的で魅力的なキャラクター。
強くて偉くて美しいけど、重責を担う中での葛藤も抱えてて、ちょっと脆そうな部分も魅力的。

色んな魅力的なキャラクターが出てくるけど、
アダムスはとりわけ絵になる主人公って感じのキャラ。

窮地を乗り越えていく様は少年マンガっぽくもあり、
アダムス自身の成長も描くビルグンドゥスロマンでもある。

シリーズを通じてやりたいこと全部やるってのはこういうことか。
物語の型というかジャンルもその時々で使い分けながら進んでいく。

いやー、見事だよね、面白い。

第1部で提示された謎が現代の日本を舞台に徐々に解きほぐされていく! 小川一水/天冥の標 Ⅱ 救世群

舞台は未来の植民星から一転、現代の日本へ!
未来のどこかの物語から、ぐっと現実感が増してくる。

天冥の標 2 救世群 (ハヤカワ文庫JA)

天冥の標 2 救世群 (ハヤカワ文庫JA)

パラオで起きた謎の感染症とその患者の物語。
新たな感染症は顔に痕がでることから「冥王斑」と呼ばれ、パンデミックが起きる。

一命をとりとめた患者から血清を作り、助かる命も出てくるのだが、
この病気は患者が一命をとりとめても、ウイルスは残り続けるので、
隔離しなければならない。

せっかく助かっても隔離される患者たちは、
生き残っても疎まれる存在。

隔離された少数の存在が、世界中でパンデミックが起きるたびに
徐々に増えていき、いつしか共同生活を営むようになっていく。

そう、この巻は救世群がどのように生まれてきたを語る巻。

第一部で提示されたたくさんの謎の1つである救世群という存在への一つの回答になっている。
そしてまた第二部で提示された謎もちらほらあるのだが、
一つ一つこうやって解きほぐされていくのだとしたらとても心地よい。

物語の設定って設定と言ってしまえばそれまでなのだけど、
やっぱりなんでそうなっているのか、という部分が考え込まれている方が
強い世界観になっていくと思う。

天冥の標は想像された未来の世界と、その世界に至るまでの道筋を
物語る小説なのかな?だとしたらその試みは超面白いな。

続きが楽しみである。

天冥の標 2 救世群 (ハヤカワ文庫JA)

天冥の標 2 救世群 (ハヤカワ文庫JA)

これ、間違いなく面白いから一気に読むの確定!! 小川一水/天冥の標 メニー・メニー・シープ

小川一水さんの天冥の標が10年の時を経て完結したらしい。
としたり顔で語っているが、小川一水さんのことも、
天冥の標のことも知ったのはごく最近だ。

twitterで流れてきた小川さんの選評が素晴らしいという話が気になり、
選評読んだら素晴らしかったのでまずお名前を記憶した。

気になるなぁ、代表作は何なのかなと調べていたら、
天冥の標を知った。

その後、kindleのセールで天冥の標がお安くなっていたので大人買いして、
いつか読もうと放置していた。

で、しばらくすると、天冥の標が完結したというニュースが届いた。

わを、なんかこの流れるような展開は運命なんじゃあるまいかと思い、読み始めた次第。

天冥の標? メニー・メニー・シープ(上)

天冥の標? メニー・メニー・シープ(上)

天冥の標 ? メニー・メニー・シープ (下)

天冥の標 ? メニー・メニー・シープ (下)

第1部は宇宙の彼方、西暦2803年に起こった植民星「メニー・メニー・シープ」での革命運動を描く。

複数の種族が住んでいて、移民時に乗ってきた宇宙船がエネルギーを供給し、街が機能している。
独裁状態で、エネルギーの供給がどんどん削られていき、圧政に対する革命運動が起きていく。
でも、とにかくすべてが謎。
皆がどこからどうやって来たのか。様々な種族はいったいどう生まれたのか。
謎の病気は何だったのか?? 隠された別の宇宙船は一体??
そもそもエネルギーを制限していたのは何のためなのか?

次から次へと、謎が謎を呼び伏線を張り巡らしていく。

どうなっちゃうのこれ、どうなっちゃうの??
でも、これまだ全然明かす気ないんでしょ??
まじかー、焦らされるわ!と思いながら一気に読んだ。

そして案の定、終盤戦まじでーってなったので、
これは続編も一気に読むしかありませんね、という感じ。

内容もなんもない単なる感想なのだけど、これ間違いなく面白いぞ!!

天冥の標? メニー・メニー・シープ(上)

天冥の標? メニー・メニー・シープ(上)

天冥の標 ? メニー・メニー・シープ (下)

天冥の標 ? メニー・メニー・シープ (下)

人間の弱さや傲慢さを滑稽に描く寓話たち ヴォルテール/ミクロメガス バベルの図書館

バベルの図書館はボルヘスが世界中の物語を編んだアンソロジー
旧バージョンは全30巻で、1冊1冊が函入りというこだわりの装丁。
大人になって小銭稼ぐようになったので、学生の頃欲しかったこのシリーズを大人買いしてみた。

ちなみに、数年前に新編バベルの図書館として、
全6巻が刊行されているので読むだけならこちらで十分。

新編バベルの図書館 第1巻

新編バベルの図書館 第1巻

で、ヴォルテールである。
スウィフトのガリバー旅行記からの着想なんて指摘されているから
なんのことかと思ったら、巨人が地球に来る話だった。

ガリヴァー旅行記 (岩波文庫)

ガリヴァー旅行記 (岩波文庫)

シリウス星の巨人が宇宙を旅して地球へ来るんだけど、
途中土星によって、土星の小人を連れて一緒に旅したりする。

巨人はめちゃくちゃでかくて地球に来ても人間が小さすぎて見えない。
ダイヤを組み合わせて顕微鏡にしてやっと見えたのが鯨だった、とかいうくだりも。

で、なんだかんだで人間と対話しだすんだけど、
人の傲慢さなどの風刺を効かせているお話。

まぁ、こんな奇想みたいなお話が18世紀の物語なんだよね、ヴォルテール、頭おかしいな。

他にも愛し合う男女が結ばれない物語がお好きなようで
『バビロンの王女』なんかは世界中を壮大な追いかけっこをしている。
モテモテ男が世界中の街を巡りながらいく先々で口説かれる。
男は自らの貞節を証明し続けるのだけど、なぜか「商業娘」(これも面白い訳語)に籠絡されてしまう。

そこで彼は娘と夜食を共にし、飲み食いするうちに日頃の節制を忘れ、そして食後は、美女に対して常に動ずることなく、心とろける媚態にも常に冷酷に振舞うと云う、かの誓いを忘れてしまったのだ。人間の弱さの、何と云う好例であることか!
P.244

で、よりによってたった1回のその現場を後から来たお姫様に見られて激怒されるっていうパターン。

あと、メムノンという作品では、完全完璧であろうと誓いをたてたメムノンがいきなりつまずく。
その描写が奥ゆかしくて面白い。

メムノンは今や極度に彼女の悩みごとに同情していた。かくも操正しく、かくも不幸せな女に、是非とも親切を尽してやりたいという思いが、ますます募る一方だったのである。話に熱が入る余り、彼らは知らず知らずいつの間にか向き合って座るのをやめ、その上いつしか二人の足も、もはや作法通りに組まれてはいなかった。メムノンが余りにぴたりと女に寄り添って忠告し、かつは余りに情深き助言を与えていたため、二人とも次第に悩みごとの相談どころではなく、もう何がどうなっているのやら、さっぱり解らなくなっていた。
P.20

落語とかもそうだけど、昔の人はおおらかだよね。
誓いを立てたり、意識高い側面も見せるんだけど、基本的に意志が弱い。
「何がどうなっているのやら、さっぱり解らなくなっていた。」とか言って、
自分ではどうしようもないことのように言うあたりがおおらかで面白い。

人知を超えた存在が信じられていたと言うのもあるかもしれないよね。
人の限界を知っていて、神などの人を超えた力の前には無力、どうしようもない、しょうがないって言う感覚。
このある種の諦念は、無駄な悩みを排除してくれる側面もあったのかな、と。
うじうじ悩んでてもしょうがないよね、神の思し召しじゃ、みたいな。

好きになっちゃうのはしょうがないのよ、キューピッドの矢が刺さっちゃったんだから、みたいな。

世の中意識高い人が溢れてるけど、たまにこの人何のために意識高いのかなって人もいるよね。
クリステンセンの『イノベーション・オブ・ライフ』じゃないけど、自分の幸せ(を感じるもの)が何なのか、
よーく考えることが大切だと思う。

digima.hatenablog.jp

僕は家族みんなが健康かつ円満で酒飲みながら本読んだりする時間がとれてれば幸せです。


ロードス島戦記とグランクレスト戦記、新旧両作の共通点に思いを馳せる。 水野良/グランクレスト戦記

水野良さんデビュー30周年を迎えていた模様。
そして誰もが?知ってる日本のファンタジー小説の元祖的な
ロードス島戦記』の著者である。

30~40代の人には懐かしい思い出となっているはず。
ロードス島の新作も書き下ろしていると聞き、
25年ぶりに再読してみたりもした。

その後最新作のグランクレスト戦記も読んでみたのだけど、
本質は変わらないなぁ、という感想。


ロードス島戦記』は騎士パーンとエルフのディードリット
中心にした戦記ものだったが、新作も再び戦記ものである。


戦記物であるゆえなのだが、視点が客観的。
いや、水野良はやはりTRPGゲームマスターなんだよね。
常に彼の視点はそこにある気がする。
だから、彼から紡ぎ出される物語は戦記物にならざるを得ないとも言えるんじゃないか。

なのであくまでも観察者的視点において語られるため、
いまいち特定のキャラクターに感情移入仕切れないという面はあると思う。

そしてだからこそなのだが、主人公とヒロインがいちゃつき出すと、
観察者としての私たち読者はついニヤニヤしてしまったり、
少し小っ恥ずかしい気分になったりもする。

これはロードス島戦記グランクレスト戦記、両方に言えること。

主人公は理想に燃える好青年で、まっすぐな彼を支えるヒロインという構図も
新旧両作品の共通の構図。

主人公たちが統一や平和を求めるのに対して、敵は常にどちらかに与せず、混沌というバランスを
求めるという共通点はもはや水野良の作家性というか、テーマなんじゃないかと思う。

変わらないなぁ、という意味でも面白いし、
ある一つの勢力によってもたらされる秩序こそ終わりの始まりというテーマは、
現代においてもなお重要なテーマだと思う。

要するに多様性=ダイバーシティが重要なのよね。
1つの価値観で世界が染め上げられるということは、
決して良いことではない。

昔はそういう平和な時代があったけど、その末路は文明の崩壊へと繋がっていて、
むしろ複数の勢力が争い合う均衡こそが重要だという価値観は、
ロードス島の灰色の魔女のミッションであり、グランクレストにおいてはパンドラの理念でもある。

それでも理想を追い求める主人公たちの奮闘を描くわけだが、
彼らのゴールは終わりの始まりのはずなのよね。

だから、本当は、その後、再び世界が終わりに
向かっていく様も見てみたい、という暗い欲求も持っている。

ハッピーエンド、大団円の後に始まる緩慢な地獄、
それを書かれたら本当にやばい作品だな、と思うのだけど、
そこまで踏み込まないのも健全な水野良作品の特徴なのだとも言える。

水野良は基本的に良い人なんだろうなぁ。
全般的に、性格がいいというか、綺麗な話が多い気がする。
ここで比較するのもなんだけど、
アルスラーン戦記銀河英雄伝説を書いた皆殺しの田中こと田中芳樹の方が、
性格がひねくれていると思うし、それがまた味わい深いポイントになっていたりもするんだよね。

そういや、銀英伝も外伝読んでないな。

水野良グランクレスト戦記ではちょっとだけダークサイドに踏み込んでいて、
物語上重要な女性キャラの純潔が奪われる展開をするのだけど、
正直それが絶対に必要なエピソードだとは最後まで思えなかった。

なんとなく偽悪的というか、わかりやすい衝撃のための演出のような気がしていて、
なんからしくないなぁ、と思ったことは妙に印象に残っている。

僕たちもまた、ゲームの王国に住んでいる。君のプレイしているゲームはなに? 小川哲/ゲームの王国

カンボジアポル・ポトの隠し子、SF、という一見すると不思議な取り合わせなのだけど、
読み始めるとすぐに引き込まれる。

真実がわかる少女ソリヤ、天才少年ムイタック、
Boy meets Girlで物語は動き出す。


ゲームの王国 上

ゲームの王国 上

ゲームの王国 下

ゲームの王国 下


圧政の中で生きる過酷な現実は悪い夢を見ているようだが、
リアルな描写の中に、突然非現実的なキャラクターが登場する。

自分にはそれが魔術的リアリズムのような印象で
読みながらガルシア・マルケスの『百年の孤独』を思い出した。

百年の孤独 (Obra de Garc´ia M´arquez)

百年の孤独 (Obra de Garc´ia M´arquez)

その現実と非現実の間を縫うように進む感覚はリアルな夢を読んでいる感覚。

脳波を使って操作するゲームの開発と、
そのゲーム内に記憶を埋め込むというアイデアが近未来SF的な要素なのかな。
SFはあまり読んだことないのでなんとも言えないけれど。

やることが多すぎると、何もできなくなる。選択肢が多すぎると考えることが億劫になる。一度その地獄に陥ると、そこから抜け出すことは容易ではない。
下巻 P.43

人から創造性を奪うには忙しくすれば良い。
何から手をつけて良いのかわからない、優先度をつけることができないくらいの状態。
これは本当に巧妙にできた罠で、一度ハマると抜け出すことは難しい。
ラットのように懸命に滑車をこいで、1ミリも前に進ままない。
往々にしてそういうことはある。

二人の息子が一台のゲームを取り合い争っているとします。大人は「順番に遊ばないとゲームを没収する」というルールを制定します。それでようやく、二人ともゲームを遊ぶことができるのです。ルールがなければ、二人は延々とゲームの奪い合いをしているだけです。二人ともゲームができず、幸せになりません。
下巻 P.46

このエピソードも実に象徴的だ。

私たちが暮らしている社会もあらゆるルールの中で成立している。
ルールに囲まれて生きているわけだ。
ってことは家庭でも、職場でも、様々なゲームをプレイしながら生きている。

自分がプレイしているゲームやそのルールに対して自覚的でいられるかは、
仕事をしていく上でもとても重要な認知だと思う。

どんなルールのゲームで、どうすれば勝ちなのか、
あるいはどうすれば負けずにすむのか、
ここに無自覚だとまぁ、勝てない。

ルールや構造を学ばないと、一生抜け出せない。


ゲームの王国 上

ゲームの王国 上

ゲームの王国 下

ゲームの王国 下